帆船模型と機械
帆船模型を作るときにどの程度機械を使うかですが、初心者では殆ど使わなくても帆船模型を作れますとあえて強調します。そう、どう考えても15世紀くらいの時代に機械を使って船を造っていたとは考えられません。機械といっても非常に原始的な手動式の物だったと思われます。
モデラーによってはこれらに倣ってとことん機械を使わない主義の人もいます。また機械を使わないと工作はできないよと主張する人もいます。私はこれらの考えはいずれも好みの方が強いと思っています。確かに0.3ミリの穴を開けようと思えば簡単な物であっても何らかの機械を必要とするかも分かりません。
キットメーカーの説明書にもこの機械を使わないとこのキットは作れませんと記述した物は見あたりません。道具同様、ここに力を入れるときりがありません。程々という言葉が適切ではないでしょうか。
どんな機械が
機械といっても帆船模型の場合、何かを大量生産すると云った目的で使うものではありません。工作の出来映えをよくしたいとか、時間を効率的に使うために使うということが多いのです。
うんと細かい部品を作るときなど機械は役立ちます。また複雑な構造の物も機械なら幾何学的な形を整然と実現してくれます。特に帆船模型専門の機械というのはありません。一般的な小型工作機械を利用する程度です。マニアによっては0.1ミリ刻みで製材できるような精密機械を自作している人もいますが、作品よりは機械の自慢の方が目立つようになります。
なぜかというとこれを手作りで作ったんですよと云った作品の方が相手をうならせるチャンスが多いからです。
アメリカの帆船模型クラブSMAの会員が材料を入れたら、自動的に帆船模型の完成品が出てくるような機械のイラストをユーモラスに描いたのを見ましたが、どうせ機械を作るのならこれくらいの機械を作ってみてはどうでしょうか。
機械導入
ためらう
一旦機械を買おうと思ったんですが、またためらいました。それはどうも機械で船を造ることにまだ気持ちの上で抵抗があったのと、眠くなったときに怪我をしないかという心配です。私の場合1回心臓をトラぶっている。そのため血液凝固防止薬を飲んでいるので、血を見たときどうなるのかということです。ことがことだけに実験するわけにもいかない。それから孫が小さくて腕白という心配もあります。しかしこれらの懸念も買ってみてよく分かりました。今の機械はかなり安全に配慮されていると云うことです。刃物の傍は殆どカバーで保護してある。これで怪我をするなんてよほどうっかりもんだ。だけどそのカバーが邪魔になって切削面がよく見えない。いろんな考えが交錯します。だけど結局ごしごし鋸を曳いていて、こんなに沢山これからも製材しないと、と思っただけで誘惑に負けてしまいました。
導入機械の話
その1 回転鋸:小型電動です。モーターはどうやらミシンモーター、工作ははかどります。寸法も決まります。買ってみてよかったと思いました。どんどん板を作りました。そのうち途中でモーターが止まるようになりました。力が足りないのです。私のようにすぐ熱くなります。熱くなると冷めるまで待ちます。
こりゃー大変だ、日曜電気大工道具の復活です。だけど長い間休眠していた性でカップリングのゴムが腐っていました。近くのDIY店で偶然に見つけました。こちらの方は力は強いので快適に作業は進みました。
今小型回転鋸の方は休眠中です。
その2 旋盤:大砲の砲身を作らないと、部品を探し回りましたがそんなにぴったり合うような砲身はどこにも売っていません。こうなると自作しかない。いずれ旋盤を買わなくてはならない。それはスクラッチビルトの作品を作ろうとするとどうしても乗り越えないといけない壁なんです。もうキット作りに戻る気持ちはない。無理してでも自分の物にしよう。鉄道模型時代に物色していたスイス製の機械、さて買おうと思ったらテーパー削りができない、となると意味が全くない。伊東屋さんに置いてあった酒井カメラの卓上旋盤、これが頭から離れなくなってきました。当時の定価で9万円くらい。これなら手が届く。伊東屋さんで商品事情を詳しく聞きました。
9万円というのは本体と付属バイトだけ、テーパー削り、送りなどはすべてオプションで別途販売というシステムです。結局本体だけ買っても何もできなというのが現状です。しょうがないカタログを見るとほしい物ばかり、結局オプション付きで定価の倍くらいとなってしまいました。
残念なのは一遍にオプションを欲張ったものですから、10年後の今日でも全く触ったこともない、勿論使ったこともないオプション部品が工具箱の中で永久冬眠中だということです。そのうち酸化し朽ち果てることでしょう。それからもう一つの問題点、力は強く切削も快適にでき工作は本当に夢を果たすことができ喜んでいたのですが、回転を伝導するのがゴムベルト、これが切れやすい。当然切れると回らないので鉄屑になってしまいます。それで絶えずベルトの予備を持ってないと、銀座とか付近の東急ハンズにいかないと入手できない。面倒だからとストック数を増やすとゴムですから硬化が進んで使いたい時にしわしわですぐ切れる。こちらも切れてゴムに油を塗ったらべとべと、何とか長持ちする方法をご存じの方はご一報下さい。
その3 回転鋸:日曜大工の回転鋸を使っていたんですがこのカップリングがゴム、ゴムは経年による変質が早いんです。しかも特殊な形状ですから予備の入手が難しい。これも結局使い物にならない鉄屑に変身しました。だけど電動鋸による作業の快適さ、一度味わった好感は捨てることができません。モデラー仲間からの情報では最近輸入を始めたドイツのproxxonの工作機械、ホビー用と宣伝しているのでちょっとおもちゃっぽいが価格は結構高級機並み、回転鋸は小型と中型の2機種があるのですが、前に加熱で苦労した経験がある。パワーには余裕を持たないと、ということで中型を選びました。結果大変快適です。力は強い、長時間使用に耐える。切削角度を変えることができる。回転刃の種類が多く、チップソウまで揃っている。モデラーの気持ちを揺さぶる配慮があちこちに見えメンテナンスもやりやすい。一遍に惚れました。元々ドイツ製には変な憧れがあり、それを満足させるものでした。
女性に惚れるのと一緒、あばたもえくぼに見えてきます。
その4 フライス盤:これも鉄道模型をやっているときに欲しかった機械です。鉄道模型時代は年代も若く、それなりの収入が得られなかったのでとても手が届かなかったのです。こんなことで色んなメーカーの製品事情も熟知しているつもりでした。旋盤と同じようにスイスのメーカーを第一候補としていました。日本製にもかなりのものがあるのですが、すでに鉄道模型から帆船模型に転向した鉄道模型マニアから見ると反逆者ということになります。もうそんなに高級機は必要としません。そこへプロクソンの出現です。同じクラブにいたU氏が先に使っていました。色んな体験を聞けば聞くほどだらしなく涎が出てきます。よし、使わないとしても買おう。これなら期待を持たないのでがっかりすることはありません。価額はプロ用の機械から見ると1/10以下です。本当に眺めるだけでもよいという気分でした。U氏に購入を依頼しました。特別ルートを持っていてかなり有名店で買うより安く入手できました。機械の販売は先の旋盤と同じようにちょっとしたアクセサリーは殆どオプションで別途購入になります。旋盤の二の舞はごめんと最低限にしました。
機械が到着しました。早速組み立てたのですが、モーターがかなり大きい。これならパワーに不足はないだろう。早速試運転、テーブルも思ったよりしっかりしている。木を削るだけなら云うことはない。金属は、ちょっと厳しいなと、だから未だに金属は削っていません。そのうちどうしてもということになれば使うつもりです。フライスのよいところは今更云う迄もありませんが、送りの寸法がしっかりしていることです。だから加工部品にけがきをする必要がない、もったいないけどボール盤代わりに使うと規則正しい位置に穴を開けることもできます。ガンポートの取り付け金具、ラダー取り付け金具等、幅の狭い金具に等間隔できっちり穴が開いていきます。ミーリングを使って電動鉋代わりにもなります。薄い板がきっちり設定した寸法通りの厚さで削られていきます。こりゃーもうーたまらんなーというところです。
その5 電動糸のこ盤:プロクソンの機械を2台買ってよく分かりました。もう信頼性は抜群です。やはりキャロラインを作るときフレームが大きく、枚数も多いのです。実は私鉋使いは下手、彫刻もうまくない。ただ自慢できる技能は糸鋸挽きでした。鉄道模型で鍛えた腕、これだけは自慢できるくらいの腕を持っています。だけど、フレームの大きさ、枚数とも、寄る年波に勝てず、手挽きの負担は大変な重荷です。よし電動に変えよう。結局プロクソンを選ぶ羽目になってしまいました。その前に国産の有名メーカー品も検討したのですが、セミプロ向けでパワーが大きすぎる。模型用にと別の機械を選ぶとおもちゃ臭くなりとても使えそうにもない。とうとうプロクソンシリーズ化したわけです。
使ってみました。当然のことですが音が大きい。それから電動の特徴として刃の長さ全体を使わないでごく一部を使っているので、すぐ刃が切れなくなります。これはプロクソン固有の問題ではなくて電動糸鋸の宿命です。一応初期の作業は全部済みましたが何か不満が残る。それに以外と刃の取り替えが面倒、刃のテンション調整もやりにくいなど、念のためフレーム1枚を手で挽いて見ました。どうもこの方が慣れのせいかよほど快適で、後仕上げ作業をしなくてもよいくらい罫書きラインに沿って切れています。この辺が機械の限界か、多少楽したなという程度の効果しか得ることができませんでした。
その6 サンダー:帆船模型を作る上で一番労力のいるのが外板磨きです。今度のように1/24縮尺の大きいキャロラインではその面積はただ者ではありません。キットの1/72の船でも大変だなと思うのですが、こんなに大きい船だと最後まで磨き上げられるのか自信がありません。サンドペーパーでごしごしやっていたのですが、どこを削っているのか、いつ終わるのか見当もつきません。そこで目に入ったのが例のプロクソンのカタログ、ちゃんとサンダーが載っています。それまでにも建築業者が回転式のサンダーを使っているのを見ました。もうもうと舞い上がる煙、これだけで気が遠くなりとても使う気持ちになりません。だけどプロクソンのは往復運動方式、これなら埃が舞い上がることはないだろう。早速入手しこれからは楽になるぞーと大きな期待を持ってスイッチを入れた。ぶーんと軽快な音を立ててモーターが周り出す。女性のお尻の形に似た船体にそっとサンダーを当ててみる。面白いほど木肌が削れる。一部分だけきれいに整形できた。だけどものの30分もすると手先が振動でしびれてくる。これはたまらん。家の中から庭いじりの軍手を見つけた。これだっと歓喜して作業再開、それでも結局は白蝋病になるんではないのかなと云うほどの振動の伝わり。
挙げ句の果てはサンダーは工具箱にお蔵入り、後はせっせと手動サンダー、3ヶ月後も磨き残しのまま別の作業に変換中。
その7 バンドソー:長いこと買うのをためらった機械です。クラブのU氏だとか他の人からも便利であることはよく聞いていました。だけど何か腕の一本も切ってしまうのではないかと云う理由なき危惧を持ち続けていました。使い道は多いだろうと期待も多かったのですが何か購入チャンスを失っていたんです。どっちにしてもここまでくるとメーカーはプロクソン、えらい惚れ込んだものですね。同じカラー、特徴のあるスタイル、シリーズで機械を並べてみると気持ちが和むのです。
やはり負けてしまいました。特にキャロラインを作り出して小物をカットするチャンスが増えたのです。なるほど便利、今まで切れないピラニア鋸でごしごしやっていたのが、正確に直角、平行、角度切りが簡単に正確にできます、しかもあっと云う間に切れるのです。多少の緩いカーブなら糸鋸よりきれいに切れます。何でもっと早く買わなかったんだろうと後悔も入ります。
腕ですか、未だにまともにくっついていますよ。取り越し苦労だったんです。前にお話ししたように今の機械は安全性への配慮もよくできています。ストッパーを設定したら腕なんか入りっこないんです。
その8 コンプレッサー:鉄道模型・飛行機模型・プラモデルをやっていたときは空気ボンベ式のエアーガンを使っていました。将来的にはコンプレッサーに変えよう。そのうち帆船仲間からアメリカのかなり玩具っぽいのですがコンプレッサーをいただきました。ようやく夢のコンプレッサーが手元に置けるようになりました。ところが帆船模型の場合どうしてもスプレーガンを使う気になれないんです。
塗った結果がきれいすぎる。まるで定規で直線を引いたように整いすぎている。ヨットの模型ならともかく、帆船模型にはそぐわない。スケッチを描くときたとえ直線を定規で引いてもそれを下書きにふるえる手で線をひっぱたほうが味のある暖かい線が引けます。これと同じようにクラシカルな帆船模型は手で塗るべきだ、手塗りの後のタッチに意味がある。本物の近代船でも以前横浜港へQE2を見に行ったことがあります。遠くから見ると非常に白い塗装がきれい。3時間もかかってようやく船体に近づけたのですが、近づいてがっかりしました。塗装がべこべこなんです。昨年も北欧旅行で豪華客船クルージングをしました。手すりや、船体の塗装がごつごつで遠くから見るように決して平滑ではありません。ましてロマンあふれる帆船、これがまるでプラモデルのように整っていたんでは面白くありません。考え方は人様々でしょうが、私はきれいさよりタッチの荒さを選ぶようにしています。
その9 ルーター:帆船模型を作り出して割と早期に手に入れました。何かにつけて便利なんです。
勿論穴開けに電気ドリルとしてデッキの木栓用穴、船体の釘穴すでに2万個以上の穴を開けました。穴あけだけではありません。研磨、彫刻、切断と使い道はいろいろ、回転数は1000r.p. mから10000r.p.mくらいまで可変で自由に設定できます。場合によっては歯を削ることもできるのではないのかなとも思えるくらいです。先端につける工具も安いのは工具鋼、高級品はダイヤと形状も大変沢山の種類があります。切削用のはものだけではありません。サンドペーパー、砥石、金属ブラシ、フエルトなどの研磨具、まさに万能です。これだけは故障してもすぐ新品を買い直そうと思っています。明日これがなかったら困るのです。もうまるで自分の指先同様、体の一部分です。これだけは初心者の方にも是非とおすすめします。そんなに高価なものではありません。最近模型メーカー(確かタミヤと聞きました)から乾電池で動作するものが売り出されたようです。これなら消耗品扱いできます。早速模型屋さんへ出向かれたらいかがですか。
その10 機械とは:電気で動く工具はすべて機械と考えています。昔は人力、水力なんかを利用したものもあったようですが、場合によってはゼンマイの力、だけど今は電気です。電気なら制御が簡単になります。特に最近は原始的でも頭脳を持った機械も増えてきました。帆船模型を作るのに機械を使うことは何事かと主張していた私ですが、すっかり考えが変わってしまいました。大いに機械を使いましょう。ただすごく機械に懲りすぎて、帆船模型を作るのにもすばらしい専用機械を開発し、なるほどすごいなと驚かされることがあるのですが、機械がよすぎるせいか、そこからあまりすごい機械並みの作品を見たことがなく、機械は機械で終わってしまうというのは以下にも本末転倒の感じがします。
その11 パソコンとの関わり:今はやりのIT革命ではありませんが、帆船模型とパソコンには何らかの接点があるのでしょうか。いやすでにみなさんこのホームページをごらんになり、帆船模型と接しています。もう今やパソコンなしで何事も語ることはできなくなりました。クラブの仲間には船体図をパソコンで書いている人もいます。船の飾りをパソコンで彫刻できる機械も販売されています。今私もパソコンをフルに活用しロイヤル・キャロラインを作っています。またその結果をパソコンで資料にまとめ研究会の資料にしています。このように近代的と思われる最先端の機械も帆船模型に強く関係を持ち、そのうちアメリカのクラブ機関誌で見たのですが材料を何種類か入れて設定しておくと自動的に帆船模型が出てくるような機械が作られるかもしれません。そのとき私は全ての機械を放ってしまって、金槌と鑿だけでこつこつ帆船模型を作っていることでしょう。