木材と金属加工
木材加工は帆船模型の主作業です。切ったり削ったりと、この仕上がりが作品の仕上がりの良さを決定づけます。単に切ると云っても色んな方法があります。それから切る対象によっても切り方も道具も変わります。
金属作業は資料のところで紹介した「鉄道模型工作技法」を参考にして下さい。そちらに大変詳しい説明があるので重複を避けます。
〇 切る
切ると云えば鋸を思い出すくらいよく使います。大きい材料から部品の姿に変えるまで、製材となれば丸鋸を使うのが効率的で、寸法も決まり、これがないと一寸製材は無理なくらいです。おそらく手挽き鋸で製材できるとなれば名人中の名人でしょう。丸鋸の場合切れなくなったら刃の交換が手っ取り早いです。丸鋸の目立てをしてくれるところは皆無でしょう。まして自分ではとても無理。
次によく使うのが手挽き鋸、日本の鋸は引いて切りますが、欧米のは押して切ります。刃の付き方が違うのです。そして板を横断的に切るのは横挽き鋸、刃の細かいものです。板目を縦に切るのは縦挽き鋸、目の粗い方です。ピラニア鋸というのがあります。目が非常に細かく、刃も薄いので細かい工作に向いています。この刃はスウェーデン鋼でできているので刃がつぶれたらナイフに加工すると良く切れるナイフができます。木だけでなく金属も切れるので多少釘付きの板を切るのも平気です。
これに似た鋸にエクザクトがあります。刃が交換できるので取り替えに便利です。エクザクトでは45度、30度、90度で切るときは角度切り用ゲージを売っているので正確な角度切りをするときに正確に切れます。大工さん用の普通の鋸も最近は目立てをしなくなり、刃の交換式が増えました。
フレームのようなカーブを切るときは糸鋸です。こちらも手挽き用と機械糸鋸があります。この場合どちらがよいかと問われると答えに困ってしまいます。好きな方でといいたいところですが厚板では断然機械鋸になります。刃は兼用のものが多いのでこだわる必要はありません。僅かなフレームを切るのなら手挽きでも十分でしょう。
それから最近私が使いだしたバンドソーがあります。こちらは荒いカーブ、直線が楽に切れます。糸鋸のような上下運動でなく、刃がベルトになっているのであっと云う間に薄い板なら切れてしまいます。無いと困るという機械ではないのですが、手軽に使えるので、あれば非常に便利です。特に小物とかしょっちゅう切るときにはスイッチを入れるだけで瞬間のように切れてしまいます。
切る作業で仕上がりをシャープにすると作品は一段と見栄えが良くなります。そのためには角をあまり丸めないことです。意図的にアールをつける場合もあるのですが、直角は直角と決め込むのが大事です。
〇 削る
板を薄くするのと、表面を細かく滑面にするという主に二つの目的です。また形を整えるときにも使います。代表的な道具は鉋です。平均的に板を薄く削ることができます。使うのには多少こつが要ります。途中で鉋を止めないで一気に引くというのも大事です。削った後で板の厚みを測ると自分の癖がよく分かります。私の場合どうも終端の右側が薄くなる傾向があります。要するに鉋使いはあまりうまくないと云うことです。鉋の手入れは素人では少し大変です。私は2年ごとくらいにプロに調整してもらっています。自分でできる人もいます。これは自慢の種になるのでうらやましい限りです。だけどご安心下さい。鉋の刃を自分で調整できないからと云って帆船模型が作れないわけではないのです。鑢とサンドペーパーだけで立派な作品を作っている人も沢山います。特殊な使い方ですがフライスにミーリングをつけて板を削っている人もいます。この場合は寸法が精密に機械的に決められるので、精度を必要とするときは有効でしょう。この方式で厚さ0.1mmの板を作る人もいます、こうなると驚異的な技術の持ち主です。削るのに鑢を使うことも良くあります。木工鑢がありますが、私はむしろ金工用を主に使っています。鑢は長さ方向に平行に押して削ります。鑢目に負けて鑢目通りに斜めに押すと、材料にラインが入ってしまいます。
鑢の目が詰まったとき、木を削った場合は電気掃除機で吸い込むだけで十分です。それでも目詰まりが取れないときはワイヤーブラシで鑢目に沿ってしごきます。もっとしつこく食い込んでいる場合はきさげとかスクレーパーで一目ずつ掘り起こします。私は一時仕上げ工の弟子になって、金型作りの真似事をしたことがあります。だから工作技術で自慢できるのはこの作業です。自信があるともいえます。鑢作業も角度をきっちり、平面にはだれを作らないことが作業のこつです。四角い立方体を作ってみると自分の腕加減がよく分かります。練習すれば必ずうまくなるので。帆船模型の製作合間にも練習してみましょう。
旋盤で材料を丸くするのも削ると云います。大分平面を削るのと感覚は違います。だけど材料が綺麗に丸くなり、細くなるのを見ると快感です。黄銅(真鍮)棒には快削黄銅棒がJIS規格で規定されています。これを使うと文字通り気持ちよく真鍮棒が削れます。
〇 磨く
削るというのは少し荒っぽい感じを受けますが、磨くになるとその結果は光沢が出るような優しい感じを想像をします。何処までが削るで、どこからが磨くなのか、作業の限界は知りませんが、船体の外板を貼り終わった後、削ると、磨くの作業を連続して行います。しかもこの作業は主に手作業で、どうしても避けられない重要な作業です。
外板と外板の間に段が付いたようなとき、鉋を使って削る人もいます。私は最初からサンドペーパーです。最初は荒い方が作業は進むし、面の荒さも問題にはなりません。とりあえず板と板の間の段差をなくすことが目的です。サンドペーパーの#100から#300くらいのを板に貼ったり、板に当てがってこすっていきます。
面倒だという人は電動サンダーを使っても良いでしょう。何も趣味の世界で効率を追いかけなくてもという人はのんびり手の往復運動を続けて下さい。これも楽しみの一つです。
可成り滑面が得られたら、今度はサンドペーパーの目の細かいものを使います。そうですね#300から#500位まで、もっと段階を細かくしてもかまいません。サンドペーパーの特徴は目の方向がないことです。だから縦、横、回転とこする方向は自由です。疲れたら色んな方向を使うと疲れを忘れます。
最後は仕上げ磨きです。好みによりますがペーパーは#700位から#1500が適当でしょう。根気の連続です。帆船模型がいかに時間を食っているのか一番よく分かる工程でしょう。
削った後指先で面をなぜて見るとつるつるの感触で何とも作った人でないと分からない快感を覚えます。
磨くというと宝石を連想しますが、アクリライトのざらざらした切り口をサンドペーパーでだんだん目を細かくし#3000くらいになると透明感を増して、まるで宝石のように輝くようになります。材料を固定してペーパーで磨くことが多いのですが、逆に平滑な面にサンドペーパーを敷いて、材料を動かして磨くこともあります。
またサンドペーパーを貼り付ける基盤の板にカーブを付けると凸面や、凹面も形に合わせて磨くことができます。こんなことでサンドペーパーは削る、磨くに大活躍します。
〇 曲げる
初心者がもっとも悩み苦労する作業です。そして帆船模型ではどうしても避けられない必須の作業です。模型クラブの勉強会に行くと必ずテーマに取り上げる重要な工作です。色んなマニュアルも見ましたが、その方法は大きく個人差というか、奇人差というかがあり、とんでもない間違いを犯す人もいます。私の知人も何人か同じことをやってしまいました。
その一つ、ローソクであぶる、子供のとき飛行機の模型を作った人は大抵この過ちを犯します。その結果、板は真っ黒、角は炭になって丸く細くそれを貼り付けて磨くと穴が開いて後をパテで埋める。最悪です。外板は竹籤ではありません。あぶってもうまく曲がることはないのです。にもかかわらず市販のマニュアルで堂々と「火にあぶれ」と書いてある本を見て驚いたことがあります。
二つ目、切り込みを入れているのを見ました。うまい人は板がバラバラにならないでうまく貼り付けたように見えます。だけどくっきり表から切り込みの線が見えます。勿論曲げたつもりなんでしょうが、私が見るとこれは折り曲げです。折り紙の山折りをやっているんではないのです。下手な人は切り込みすぎて、何とか外板は貼ったけれど削りの行程で見事、板はバラバラになってしまいました。それ以後帆船模型は難しいと断念した人も数多く知っています。こんな人に限って教えてあげようと話を持っていっても「いや、俺は俺の方法で作るんだ」と意気込みます。こんな頑固者には帆船模型の喜びを味わう資格なんて無いものと諦めて下さい。
それから色んな論議を呼んでいる曲げがあります。それは板を幅の広い方向に曲げることです。仲間内では板の薄い方向に曲げるのをA曲げ、幅の広い方に曲げることをB曲げなんて云っていますが、こんなことはどうでもいいんですが、そのB曲げについて、私が初心者の頃、先輩に質問すると、大体逃げられました。返事をしないんです。できないならできないとはっきり言ってもらえば事はそれで済むんですが、先輩としてのプライドが許さないのか、逃げられるんでいつまで経っても解決しません。20年後の今も明快な回答は得ていません。この前もそれらしく隙間をゲージ状に作ってはめ込み上からカーブの付いた板で押しつけるなんて説明を受け試行してみましたがとんでもない話、結果は曲がらないか、折れるかのどちらかになりました。
これ以外にも珍説は沢山あります。アンモニアに浸す、または煮る。そしたら木はくにゃくにゃになる。これはまずアンモニアをどうして入手するかです。そして危険な薬品をどのように扱うかです。それにアンモニアをあの長い板に浸す為にはどんな容器を使ったらよいのか。素人には難問続きです。
お湯で煮たら柔らかくなる。頭の中で想像した限り、ああこれならと思いました。しかしあんな1メートル近い板を煮るような鍋は持っていません。それで考えた結果がお風呂でした。当時外釜式だったんで温度管理ができず、どんどん温度を上げました。また上げられたんです。今のお風呂は大変賢くなって適温以上に温度を上げることはできません。結局板は曲がらず、その前に釜を空焚きした前歴があるものですからまた釜を壊してしまい、奥方殿からこっぴどいおしかりを受け、あわや帆船模型作りもこれまでかと覚悟をしたこともありました。
さて、間違いの少ない曲げ方のお話をしましょう。勿論薄い方向に曲げるのですが、私は、イタリヤ製の板曲げ専用鏝を使っています。以前伊東屋さんで売っていたものです。今は無くなったようですが。これをバイスに挟んで板を強く押しつけたり、カーブの付いた板を作り、その上に外板をおいて鏝を押しつけたりしています。半径5cmくらいのカーブなら板の厚さが3mmでもうまく曲がります。
曲げ鏝は別のメーカーですが外国で市販しているようです。
これは電気の半田鏝を改造して作ることもできます。問題は温度調節ですが、電圧調整器を利用すると簡単に温度調節ができるようになります。
もう一つの方法はペンチとかやっとこで外板を挟み少しずつ癖を付ける方法です。この方法は強く挟むと傷が付いて折れやすくなるので根気よく何回も繰り返しだんだん強くするのがこつです。折り曲げ専用のペンチを一時伊東屋さんで売っていましたが現在どうかは知りません。必要な人は問い合わせてみて下さい。
当然のことですが板にはペンチで押さえた傷が残ります、この傷は磨くと消える程度です。どうしても傷がいやならペンチの代わりに大きなカーブなら手でも曲げられますが、小さいカーブになると曲げるよりは折れやすくなります。
次は問題の幅広側に曲げる方法ですが、私はとっくに諦め、角材を曲げます。角材なら板曲げ鏝で良く曲がります。それを薄く削り出すのです。方法としては確実で現実的です。だけどうんと板が薄く幅が広いとこれも大変面倒です。それで曲げるという事から発想転換しました。切るのです。これも方法はいくらかありますが、一番よく使う方法は薄いベニヤまたはプラバンにカーブの形状を描きます。そして先にカットしても良いしそのままカーブが見えるように材料を貼り付けます。そしてカーブに沿って糸鋸でカットします。板の幅が足りないときは何枚も横につき合わせて接着します。要するにベニヤの上に継ぎ足しながら板を張り合わせ広い幅の板を作るのです。
最後にベニヤとかプラバンを削り取れば仕上げ上々ということです。
力任せに押さえつけて曲げるより、この方が余程素直にカーブのついた板が美しく仕上がります。材料の使い方では継ぎ足した線が目立つことがありますが、同じ質の材料なら殆ど分からないくらい綺麗に仕上がります。特に塗装するようなレールの場合は全く見分けはつきません。
この技法ならカーブは1mmであっても簡単に作ることができます。
金属を曲げるのは可成り簡単です。木のように折れたりしないからです。だから説明も省きましょう。ただ曲げた角はどうしても丸くアールがつきます。これがいやなら次のつなぐ工法を使います。
〇 つなぐ
ラミネート工法とも云っています。例えばブロック、ビットなんかを作るとき、角材から作るとあの細い滑車の溝を彫るのは大変です。それから船首や船尾のティラーもラミネートすると大きな材料から削り出すより簡単です。箱根の寄せ木細工のように材料をうまく選ぶと模様を作り出すこともできます。この技法は樽を作ったり、マストを作るときも利用します。本物の帆船のマストでも寄せ木で出来ているのです。いやもっと拡大解釈すると帆船そのものが巨大な寄せ木細工ではないのでしょうか。
本物の帆船もレールからデッキ、外板、キールとあらゆるところで繋いでいます。
それも昔は主に松の木釘で打ち込んでいたのです。決して接着剤を使っていたわけではありません。それが帆船模型では自由に接着剤を使うことが出来るの作業はやりやすくなります。
曲げるのところで板の幅の広い方向に曲げるのは苦労していますが。このラミネート工法を利用して細い棒をラミネートするとカーブの板が簡単にでき、強度も増してカーブが戻る様なことはありません。
金属でもつなぐ作業は沢山あります。板を曲げたとき角が丸くなることを話しましたが、どうしても角をシャープにするときは板同士を突き合わせ熔着して角を削ります。
それから真鍮線で環状の輪を作るときも輪の強度を得るために接合面を鑞付けします。主に銀鑞を使いますが、これは接合部分をガスバーナで加熱し鑞をとかして溶媒で酸化被膜を除去しながら鑞を金属表面になじませるのです。
あまり強度を必要としなかったら半田付けでも十分です。半田は鉛と錫の合金ですが大体300℃前後で熔けます。溶媒には酸化亜鉛とか松ヤニ、特殊ペーストなどを使います。半田の種類で溶解温度は微妙に違います。
銀鑞の溶解温度は大体種類によって4段階あり、一番下が635~760℃、そして720~830℃、755~870℃、780~950℃と分かれています。これを利用して、温度の高いものから順に低い鑞を使うと、接近した場所でもうまく多箇所の熔着をすることが出来ます。
帆船模型では糸もよくつなぎますが、こちらはリギンのところで詳しく説明しましょう。
〇 開ける
道具のところで多少の説明はしましたが、ここでは工作法重点に説明しましょう。丸い穴を開けるのは手の場合ハンドドリルとか、穴開けチャックにドリルを掴んで手でチャックを回します。0. 3~6mmくらいが限界でしょう。ドリルも細いのは折れやすく、多少高くはなりますが根元が太くなったドリルを使うと折れを防止できます。機械では細い穴はルーター類を使います。太くなると電気ドリルになります。部品の状況ではボール板とかフライス盤を使います。開ける対象は木だとか金属に関わらず普通はドリルを使います。プラスチックでは先端が特殊な形状をしたドリルを使うことがあります。
大きい丸穴になると特殊なカッターを使う場合もあります。丸穴の大きいものそれから四角い穴、大砲の砲門のような、それから異形の穴などは先に多箇所ドリルで穴を開け、カッターとか鑢、糸鋸で穴と穴の間を切断し、あと鑢で仕上げます。
砲門の角穴などは鑢で仕上げるとコーナーがうまく直角にならないとか、角に鑢が食い込むことがあるので。あらかじめ平ヤスリの側面をグラインダーで直角に削っておいて食い込みを防いでいます。
複雑なネットの場合も殆ど精密やスリを使って整形します。