キットの組立

 

キットの組立方については、沢山の参考書があります。また親切なマニュアルも付いているのでこれに従って作るのが最適です。人が作っているのを見るのも大変参考になります。

私が所属している横浜帆船模型同好会の会員で田村さんが製作過程を詳しく解説したホームページを発信しています。こちらは行程毎に写真と解説で初心者向けにわかりやすく作業重点に作業順に説明してあるので是非参考にして下さい。リンクのページでリンクして下さい。

このページでは重複を避けるため製作マニュアルは省きますが、各工程での失敗しやすいとか、こうすればというようなことだけ解説します。

 

○ 船台を準備 ~何事も基準が大事

あの作品を飾る立派な船台ではありません。工作用の船台です。キールを直角に保って固定できるよう支えのL金具とか板でキールを保持するような板を用意します。

 

○ キールを固定 ~船の大黒柱

キールを鉛直に保持します。角度が正確でないと後で痛い目に遭います。これがこれからのフレーム組立の位置決め基準になります。少々念を入れて下さい。

 

○ フレーム組み込み ~家なら棟上げ

キールの溝にフレームの溝を差し込みます。今時、うまく差し込めないような粗悪なキットは販売していないと思いますが、すっと円滑に入り僅かな遊びがあるのが普通です。固いときはお互いの溝を少し広げます。遊びが多いときは後でサポートを入れます。

 

○ フレームの角度とカーブ調整 ~船の形はここで決まる

キールに対し直角でなければいけません。これが狂っていると船体が対称的な形になりません。フレームの間に支えの板を入れて接着すると正確に角度を保って固定できます。また前後から透かしてみてフレームが傾いていれば溝を削ったり、板を接着したりして角度を調整します。

それから各フレームが流れるようなカーブになっているか確認し凹凸があれば削ったり、薄い板を貼り付け補修します。これも外板を貼った後に気づいても後の祭りです。もし外板を貼った後凹凸がひどいようなら、外板を剥がしフレームを再調整して外板貼りをやり直す羽目になってしまいます。

 

○ フィラー ~船首の形成、実船にはない

キットに木片の入ったものもありますが、全く入っていないものもあります。入っていてもバルサ材、決してバルサ材が悪いのではありませんが、私は朴の板を重ねてブロックにし、整形しています。フィラーで大事なことは左右対称です。画用紙で間隔を置いたゲージを切り抜きフィラーに当てて形の修正をします。

 

○ トランサムの外板 ~先に貼れ

船腹の外板を貼る前にトランサムの外板を貼っておきます。カットスターンの船(イギリス船に多い)に限ります。ラウンドスターン(お尻が丸い船でフランス船、オランダの船)では貼りようがありません。これを後回しにすると大変です。時々展覧会でこんな船を見ることがありますが、側面から見てラウンドスターンの外板が見える船が実船だとすると、航行中、水の抵抗を受けてすぐ剥がれてしまうでしょう。

 

○ 甲板仮貼り ~浮かないように

模型に限った板です。本物の船に大きな一枚板を貼ることは考えられません。船体の外板を貼る前に仮甲板を貼るのと、後で貼る方式がありますが、あまりこだわる必要はないでしょう。仮板を貼る前にマストを仮に立て、差込具合、角度を確認しておきます。これも甲板を貼った後では修正がききません。

 

○ 外板貼り ~技能レベルを示す

あらかじめ船首にラベットを彫るようにと説明したマニュアルがありますが、これも模型特有の作業でキールと外板の境目で外板が外にはみ出さないようにするための手段です。外板貼りのときに難しい板を幅広側に曲げる作業がありますが、カーブが大きいので手で曲げても可成り曲がります。曲げないまま無理に外板をカーブに沿って貼りますと板のカーブが大きい側に膨れが出ます。これをそのままサンドペーパーで削っていくと異常に薄くなり、場合によっては破れるくらい薄くなることもあります。あらかじめ膨れは接着剤をつけてフレーム側から浮かないよう固定しておきます。塗装後フレームラインに沿って真鍮釘を打たないで下さい。こんな船はありません。まして風呂の簀の子のように釘の巨大な頭が出ているとそれだけで船は動かないでしょう。

 

○ 甲板貼り ~根気が勝負

長い板のまま貼らないで下さい。よく見かけます。本物の船で全長を一枚板で貼った甲板はありません。それから仮板のまま線を描いた甲板も落第です。手を抜かないで、甲板を貼って下さい。甲板の隙間、境目にはタールを詰めて下さい。何も本物と同じように埋め込む必要はありませんが、それらしく黒い紙を詰めるとか、甲板材の側面を黒く塗りタールらしく表現して下さい。金属釘を打たないで下さい。一航海もしない内に甲板は剥がれてしまいます。注射針をカットしてパイプにしたものとかステンレスパイプを強く押しつけて、釘をダミー表現する技法があります。縮尺の大きい船ならこれでも表現としては十分でしょう。出来れば栓を打ち込んで下さい。木栓なら最高ですが、竹籤でも誤魔化すことは出来ます。このときはベテランモデラーにはレンズを渡さないことです。必ず「なあーんだ竹籤か」と多分云う筈です。

 

○ ブルワークとウオーターウエイ ~忘れないで

初心者が過ちを冒しやすいのがブルワーク貼り、キットのフレームをそのまま残してブルワークを内張してしまうのです。こうなるとレールの幅は極端に広くなり後で気が付く、それからデッキから上に出ているフレームは削り取るように詳しく図入りで示したものがありますが、この意味は外板にブルワークを直接接着することに相当します。キットですからこれは許されているのだと思われますが、本物の船が外板とブルワークが密着することはあり得ないのです。キットのようにあんな幅の広いフレームではありませんがちゃんとフレームにブルワークを貼ってあるのが普通です。それから甲板を貼る前にウォーターウェーをつけるのですが、これがキットの説明によると角棒のまま、これはやはりしっかりした図面を参考に三角にするか凹面にカットした棒を貼りましょう。

 

○ 大砲 ~重厚に

キットには大体全部部品が揃っています。それでも凝りたい人なら、車にはタイヤをつけて下さい。大砲だけそっと置かないでロープで固定して下さい。でないと、航海中船が傾いたら乗員全員が戦わずして戦死確実です。そばには弾丸が欲しいですね、ここまで用意したキットは少ないと思いますが、出来ればベアリングの玉を買ってきて大砲の側に置いて下さい。ぐんと実感がわいてきます。

 

キットによっては砲身だけで大砲の砲門窓に穴を開けて差し込む方式のものがあります。キットだけに許された、最大のごまかしです。ベテランがスクラッチビルトの船でゆめゆめこの真似はしないようにお願いもうしあげます。

 

○ ラダー(舵) ~動いて当たり前

ドアーとか砲門の蓋にヒンジをつけ、開け閉めできると、おおっこれは本物だという感じがしますが、ラダーが固定していて動かない模型を見るとがっかりします。帆船模型は固定部分が多くて、動くところはラダーくらいです。ここは無理してでも動くものにしたいですね。ドアーやら砲門の蓋になると部品が小さくなるので初心者に動くようにと云う要求をするのは厳しいかも分かりません。だけどせめてラダーだけは何とかして動かしたいものです。舵輪を回すとラダーが動くなんて、これだけで自慢の種になります。18世紀以降の船ではラダーが外れたとき、流されないように鎖をつけています。これも省略しないで付けたいものです。

 

○ ホーズホール(錨鎖穴)とヘッドレール ~ここで崩れる

船の前の部分です。ホーズホールは錨の上げ下げするとき摩擦の多い部分です。

穴の下側は角張ったままでなく、だれたような丸みを付けるとうんと実感的になるでしょう。ヘッドレールは工作上難しい部分といえます。左右の対称、上下関係バランスがとりにくいし工作もむずかしく、ここで形がゆがむと、船全体がゆがんで見えます。うまくできるとあのカーブは大変美しく、ああやったと感動することになります。

 

○ キャットヘッドとアンカー ~重さを感じる

キャットヘッドには色んな形がありますが、どれも船体から横斜めの方に突き出ています。重い錨をぶら下げるので丈夫に出来ています。先の方には錨のロープを巻き上げる滑車が付いているのですが、模型では良く穴だけ開けたものを見ます。せめて細い角穴を彫り込んでそれらしく見せたいものです。工作に自信があれば溝を彫って滑車を入れると最高です。私はここにラミネート技法を取り入れ、角穴を彫らなくてもすむように板を張り合わせながら角穴を作ります。非常にシャープな角穴が出来ます。勿論滑車を入れるのは当然と思っています。

キャットヘッドのロープでアンカーをぶら下げますが、このままで航行すると危険です。それで航行中はアンカーをフォアマストのチャンネルの上に載せデッドアイのランヤードに先を引っかけるようにしています。アンカーは普通鉄の鋳物で出来ているので、重さが感じられるような色を塗ります。金属だからと真鍮地を露出したり、銀色に塗ったりしないようにしましょう。 

 

○ ピンレール・シートビット・チャンネル ~あれ、外れちゃった

この艤装部品は模型でもロープを張ると相当な力が掛かります。特にシートビットなど甲板にただ接着剤でくっつけただけだとロープを張った途端、ぴしっと音を立てて外れてしまいます。デッキを貫通してストッパーを付けるか、真鍮線を埋め込んで固定すると可成り強度を増して外れを防止できます。これも初心の場合はロープの通る穴は、穴でよいと思いますが、レベルが高くなるに従って、角穴、最終的には滑車入りと進歩したいものです。

ピンレールの場合はビレーピンを接着しないで下さい。ここは差し込むだけです。リギンはやりにくいし、不安定で困る、模型だから許してよ、と意図的にくっつけるならあえてそれ以上は申しません。だけどピンレールが抜けるだけで,敵が、乗り込んできたとき、これを外して戦えると思うと安心感が非常に増すのです。

 

○ キャプスタン ~これ、回るんだよ

ラダー同様、数少ない動く部分です。これも模型だからと貼り付けてしまっても良いのですが、出来たら動かしたい部分です。通常棹を抜いた状態が多いようですが棹も接着してしまわないで抜き差しでき、そしてキャプスタンが回って。ストッパーを掛けるとロックされるなんて、これぞ模型だ、そしてこれなら錨も巻き上げ、荷物の運搬もできるぞと自己満足するにはもってこいの艤装でしょう。

いきなり突然敵が乗艦してきてビレーピンが抜けないと多分狼狽するか、殺されてしまうだろうとその気になって心配しているのです。

 

○ ポンプ ~汲みださないと沈没

もう一つ動く艤装、それは手押しポンプです。船底には黙っていても水がたまります。これが模型だと水が入らないので、多くのモデラーは安心しきってポンプも固定してしまうのでしょう。だけど本当は船の安全、命のかかった大事な道具です。せめて水を汲み上げることは出来ないにしても、ハンドルを動かせばそれなりにぎーこ、ぎーこと音がしていかにも重さが感じられるようにしたいものです。

ロストワックスで一体にできあがったポンプなんて大間違いの部品です。こんな部品がもし入っていたら、少なくても2、3隻も船を造った経験のあるモデラーならすぐにでもその部品を切ったり削ったり、改造するか、新しく作り直したいものです。

 

○ ボート ~命、助かる

これは作品のレベルがはっきり現れる部品です。簡単なものはプラスチックで出来た一体ものを着色した程度、または木材の削りっぱなしに色を付けたもの、少し手を掛けてオールが載ったもの、外板を貼った物、究極はキットの部品を使わないで全てを自作したもの、外板もフラット、またはクリンカー貼りを忠実に表現したもの。おそらく殆ど本体ができあがったところで最後の工程としてボートを付ける事になると思いますが、ここで手を抜くと、折角今まで頑張って作ってきた本体を台無しにするのもこのボートです。

 

○ マストとヤード ~曲げるな

キットを見ると殆ど丸棒が入っています。だけどそのままでは使えません。マストは上の方へ、ヤードは両端側に行くほど先が細くなっています。結局四角い棒から削るのと同じような手数がかかります。むしろ四角い棒にあらかじめ先細のテーパを付け、丸くする方が工作はやりやすいので、ベテランになるほどキットの材料を使わないで角棒から加工する事が多くなります。それも1本の材料ではなく4本または多くの本数を張り合わせ削ります。その方が丸く整形するときにバランスがとりやすいのです。

 

○ セール ~汚いのがきれい

帆を張るか、張らないか、考えるところです。キットには完成した帆、または布だけ入ったものもあります。完成した帆ならすぐ貼れるので楽は楽なんですが、どうもこれならと納得できるものは少ないようです。実船の帆は布を何枚も張り合わせてあります。それを模型で表現するのにミシンの縫い目で表現したり、鉛筆とかペンで線を入れたりします。風をはらんだように見せるために帆を膨らませるのか、それともだらりと帆を張るのか、それとも帆を巻き込んだ形で表現するのか。

染めていかにも大海原を航海した感じにするのか、真っ白のまま張るのか、それとも絵を書き込むか、順風漫帆で直角に張るか、横風用に斜めに張るのか、面倒だといっそ帆を外してしまうか。まあここまで話したことは全て間違いではないのでどれを選んでもいいでしょう。好きずきで決めて下さい。

 

○ リギン ~ややこしい

ロープの張り方です。初心者は間違いなく戸惑います。それとキットの説明とか図面がいい加減なのが多いのです。まず分からないと云うこと。勿論資料の間違いを探すなんてとても出来ません。ただ複雑なだけです。だけどよく考えてみるとなんやら規則性があるようです。細かいところは別として、大体どんな船でも同じような気がします。

それからキットについている糸はせいぜい4、5種類であまり真剣にリギンを考えた用意とは思われません。ベテランになると糸の種類が増えます。本物では少なくても30種類は超えます。それからこんな間違いは絶対しないで下さい。糸の色なんですが、説明にスタンディングリギン(静索)と書いてあれば黒です。ランニングリギン(動索)になっていれば白か茶色です。この逆はありません。また全部真っ白も困りものです。海の潮風に侵されてすぐ切れてしまいます。

ロープは静索から張ります。それはマストを固定する意味を持っているので先に張らないと帆が張れないと云う事になるからです。先に動索を張ってしまうと、後からでは手が入らなくなり静索は張れません。これは原則です。

糸を張るときブロックを沢山使います。キットに沢山入っていたからと安心しないで下さい。足りなくなっても余ることは殆どありません。後で買い足して色や形が違うとき、初心者はうまくつじつまを合わせることが出来ません。リギンを良く理解したベテランはうまく誤魔化してしまいます。またこだわりの強いベテランならブロックは全て自作してしまいます。キットには2、3種類くらいしか入っていませんが本物は特殊な形状も合わせて4、50種類は使っています。

 

○ ランタン ~明るくない

展覧会に出品するためとか人に作品を見せるために運搬するとき、取れやすい部品です。取り付け部分を工夫して補強するようにしましょう。

 

○ 装飾付け ~落ちてしまった

キットには金属部品が付いています。このまま本物の大きさにしたとすると、確実に船は沈没するでしょう。重すぎるのです。模型でもその重量に耐えられず良く接着が剥がれます。真鍮線を埋め込んで補強すれば取り付けは確実になります。重いからと云って、本物のように木を彫って飾りを作るなんて、初心者、いやベテランでもなかなか出来るものではありません。ですが彫刻が出来るようになればこんな楽しいことはありません。自分だけの世界でただ1隻の船が出来ます。長い道のりになるかも分かりませんが、自分の彫刻飾りが付けられるようになると帆船模型作りも名人になること請け負います。

 

○ 旗 ~国を間違えた

同じ国でも時代によって形も色も違うことがあります。旗専門の資料もあるのでベテランから事情を良く聞いてみましょう。それから旗を付けるときなびかせる方向ですが、軍艦や汽船のように進行方向の後ろになびかせたものを見ます。帆船は帆の張り方を見て後ろから風をはらんでいるようなら、進行方向になびかせます。横方向の風で帆が風を受けているとき、旗が風上に向かってなびいていることに気が付くと、簡単です、旗の方向をひっくり返したらよいだけです。

 

○ 船台 ~船より立派

キットに付いている船台は、はっきり言ってお粗末です。折角努力して美しく作った作品、ここでもう一踏ん張りして、個性のある船台を作りましょう。これは作り方というより、どんなデザインにするか、多くの作品を参考にしましょう。重厚な感じ、モダンなデザイン、変わり型、あまり下の板が小さいと不安定です。飾りすぎると船が小さく寂しくなります。船台には船名を付けましょう。細かい説明はお好みでどうぞ。

 

○ ケース ~埃をためる

あった方が良いでしょう。裸で置いて埃が付くと掃除が大変です。市販でも間に合うのがあれば幸いです。自作してもそんなに難しいものではありません。市販で色んなケースに適した材料を売っています。ガラスは重いのでアクリルを入れた方がよいでしょう。