福田 正彦
エピローグに代えて ― 契約と情報の出し方
本文ではあえて触れなかったのだが、代理店である王子さんご夫妻、特に荻原久美子さんには大変お世話になった。日本の代理店「メリディアン・ジャパン」としての最初の文書に「今回のご旅行手配は、個人旅行手配となり、いわゆる団体旅行とは手配の進め方が違います…添乗員は同行しませんので…」と断っている。一方で「…乗船中は日本語アシスタントが、皆様の快適なクルーズのお手伝いをいたします…」とも書いてある。簡単にいえば添乗員としてのサービスはしないがお手伝いはするということで、ここが大変難しい。
これはサービスに対する契約条件だが、われわれは添乗員費用を払っていないのだからこの条件は当然でもある。一方で今回のクルーズでは他の旅行会社から35人という大人数の日本人団体客が乗船し、2人の「添乗員」が付き添った。一般的にいえば添乗員は客の安全を確保し日本語で世話をするのが役目であり、それによって成績を評価される。客による過剰なサービスを要求されてもむげに断れないだろうし、他の団体への配慮もついおろそかになろう。目の前でこういったサービスの相違が出るものだから、当然いろいろ誤解も生じる。もっと事前にいってくれればとか、本来自ら調べなければならないことも要求したくなるのだ。
どういった情報をどのように出すかはなかなか難しい、例えば船長を囲んで夕食をする機会があった。その際にぼくは知らなかったが、英語のできる人はそのテーブルに集まってくれという噂があったという。これは情報の出し方としては上手くない。船長を囲んで夕食をするから有志の方はそのテーブルにどうぞと言えば済む。英語ができなければ食事中にこりともしない船長と何で一緒に食卓を囲むか、という選択肢を与えることになるからだ。聞かれればいつでもお手伝いしますよといわれても、何で事前にいってくれないのということもまあいいたくなる。
それやこれやで、荻原さんは最後に荷物出しのことなどを文書で配り大変助かったが、これは少し添乗員仕事に踏み込んだのかもしれない。口頭では全員に理解してもらうことがなかなか難しい、と感じたのだろう。下手をするとおれは知らなかったと言われかねないからだ。いろいろあった中で荻原さんはよく勤めて下さったと思う。改めて感謝の意を表したい。
まあ、何はともあれ帆船の旅はいい。船を身近に感じる。いろいろ考えればぼくの人生の最後を飾る船旅かもしれない。そうでもないよと思いたいのだが…
(おわり)2013.10.29.